神戸地方裁判所 昭和61年(わ)1052号・昭61年(わ)936号 判決
右の者に対する相続税法違反、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官重冨保男出席のうえ、審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年四月及び罰金一八〇〇万円に処する。
被告人が右の罰金を完納することのできないときは、金一〇〇〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、全日本同和会和歌山県連合会副会長及び同連合会和歌山市支部長をしていたものであるが、
第一 上野政一が昭和五七年三月三一日に死亡したことによる相続税に関し、同人の長男で上野政一の財産を共同相続した分離公判前の相被告人上野勉、同人の知人で不動産売買業の友信興業株式会社の代表取締役をしていた分離公判前の相被告人坂元良次、飲食店を経営していた分離公判前の相被告人北口洋人、右全日本同和会和歌山県連合会和歌山市支部役員をしていた分離公判前の相被告人環秀雄及び同内田ら五名と共謀の上、上野勉の相続税を免れようと企て、同年九月三〇日、神戸市兵庫区水木通二丁目一番四号所在の兵庫税務署において、同税務署長に対し、上野勉の法定相続分に基づく相続税の申告をするに際し、同人の相続財産にかかる課税価格は六七二八万五五七七円でこれに対する相続税額は二九三九万一五〇〇円であるにもかかわらず、上野政一には右全日本同和会和歌山県連合会に五億六五八三万三三三三円の債務があり、上野勉はこの内四七一五万二七七七円の債務を負担すべきこととなったかのごとく仮装しその相続財産の課税価格は二〇一三万二七九八円でその相続税額は四八二万七五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出した上、同五八年四月一五日、右税務署において、右税務署長に対し、上野勉が共同相続人との遺産分割の協議によりその相続財産の大部分を相続したとして修正申告するに際し、上野勉の相続財産にかかる課税価格は八億一九〇二万三六五八円で、これに対する相続税額は三億九九八五万五三〇〇円であるにもかかわらず、同人が上野政一の債務をすべて負担すべきこととなったかのごとく仮装し、その相続財産の課税価格は二億一九七四万五二三〇円でその相続税額は五二六七万五八〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の修正申告書を提出し、もって、不正の行為により、上野勉の正規の相続税額三億九九八五万五三〇〇円との差額三億四七一七万九五〇〇円を免れた、
第二 西垣外秀雄が同五八年九月一六日に大阪府堺市丈六六一九〇番地一所在の土地(宅地)約一一八九平方メートルを三億五〇〇〇万円で売却譲渡したことによる所得税に関し、同人の妻である分離公判前の相被告人西垣外淑子、右売買を仲介した不動産売買仲介業の三景実業株式会社の代表取締役をしていた分離公判前の相被告人三木興一、全国同友会大阪本部事務局長であった分離公判前の相被告人石橋正昭、右全日本同和会和歌山県連合会和歌山市支部役員をしていた分離公判前の相被告人内田並びに西垣外秀雄ら五名と共謀の上、右売却譲渡にかかる所得税を免れようと企て、同人の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は二億六四五〇万九七三二円、総合課税の不動産所得金額は二六二万五五一九円で、これに対する所得税額は八五四〇万一〇〇〇円であるにもかかわらず、被告人が代表取締役をしている株式会社マウント開発が右全日本同和会和歌山県連合会から二億二〇〇〇万円の借入れをし、その債務について、西垣外秀雄が連帯保証人となり、右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で右全日本同和会和歌山県連合会に対し同年一二月二五日に二億二〇〇〇万円を支払ったが、右マウント開発に対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどし、同五九年三月一四日、同市南瓦町二番二〇号所在の堺税務署において、同税務署長を介して、所轄富田林税務署長に対し、西垣外秀雄の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は五九五〇万一五一二円、総合課税の不動産所得金額は二六二万五五一九円で、これに対する所得税額は一三一四万九九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、西垣外秀雄の正規の所得税額八五四〇万一〇〇〇円との差額七二二五万一一〇〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
判示冒頭の事実につき
一 被告人の検察官に対する供述調書(検甲36号)
判示第一の事実につき
一 被告人の当公判廷における供述(第一六回、第二〇回各公判期日におけるもの)
一 被告人の検察官に対する各供述調書(検甲35号、37号ないし45号)
一 分離公判前の相被告人上野勉の検察官に対する各供述調書(検甲19号ないし22号)
一 分離公判前の相被告人坂元良次の当公判廷における供述(第二八回、第三一回、第三二回、第三四回、第三七回、第三八回各公判期日におけるもの)
一 坂元良次の検察官に対する各供述調書(検甲255号ないし259号)
一 第一回公判調書中の分離公判前の相被告人北口洋人の供述部分
一 北口洋人の当公判廷における供述(第一二回、第一四回各公判期日におけるもの)
一 北口洋人の検察官に対する各供述調書(検甲247号ないし249号)
一 第一回公判調書中の分離公判前の相被告人環秀雄の供述部分
一 環秀雄の当公判廷における供述(第二一回、第二六回各公判期日におけるもの)
一 環秀雄の検察官に対する各供述調書(検甲49号ないし52号、54号、55号)
一 第一回公判調書中の分離公判前の相被告人内田學の供述部分
一 内田の当公判廷における供述(第二〇回公判期日におけるもの)
一 内田の検察官に対する各供述調書(検甲57号ないし60号、62号、63号)
一 証人三谷正の当公判廷における供述
一 三谷正(検甲241号、242号)、上野正俊の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲1号)
一 大蔵事務官作成の各証明書(検甲2号ないし5号)
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲6号ないし12号、233号ないし235号)
判示第二の事実につき
一 被告人の検察官に対する各供述調書(検甲177号ないし182号)
一 第一回公判調書中の分離公判前の相被告人西垣外淑子の供述部分
一 西垣外淑子の当公判廷における供述(第一〇回公判期日におけるもの)
一 西垣外淑子の検察官に対する各供述調書(検甲163号ないし166号、168号)
一 第一回公判調書中の分離公判前の相被告人三木興一の供述部分
一 三木興一の当公判廷における供述
一 三木興一の検察官に対する各供述調書
一 第一回公判調書中の分離公判前の相被告人石橋正昭の供述部分
一 石橋正昭の当公判廷における供述
一 石橋正昭の検察官に対する各供述調書
一 証人西垣外秀雄及び同西野明子(第九回公判期日におけるもの)の当公判廷における各供述
一 西垣外秀雄の検察官に対する供述調書(検甲231号)
一 松木敏雄(検甲155号ないし157号)、片山改作、久次米昭(同162号)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲144号)
一 大蔵事務官作成の証明書(検甲145号)
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲146号ないし153号)
(累犯前科)
被告人は、昭和五四年五月一〇日大阪地方裁判所で贈賄罪により懲役一年四月に処せられ、同五七年二月二三日右刑の執行を受け終わったもので、右事実は検察事務官作成の前科調書(検甲269号)によってこれを認める。
(確定裁判)
被告人は、昭和六三年八月五日大阪高等裁判所で暴力行為等処罰ニ関スル法律違反罪により懲役三月に処せられ、右裁判は平成元年三月一四日確定したものであって、右事実は検察事務官作成の前科調書(検甲269号)によってこれを認める。
(法令の適用)
一 判示所為 第一につき、刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条
第二につき、刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条
一 刑の選択(判示の罪全部につき)
いずれも懲役刑と罰金刑を併科
一 再犯加重 刑法五六条一項、五七条(判示の罪全部との関係で)
一 併合罪 刑法四五条前段及び後段、五〇条(懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算する。)
一 労役場留置 刑法一八条
一 訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文
(量刑の理由)
本件は、同和団体の役員をしていた被告人が、右団体の活動資金捻出等のため、脱税を請負うことによって不正の報酬を得ることを企て、相続税及び所得税合計四億一九四三万円余を脱税したという相続税法違反及び所得税法違反各一件の事案であるが、各犯行の動機に同情の余地が乏しく、その犯行態様も、いずれも架空の債務を作出して連帯借用証書、債権債務確認書や領収書等を偽造するなど用意周到で計画的なものがあり、いずれもほ脱額は高額で、ほ脱率も高率であり、被告人は各犯行により各一五〇〇万円合計三〇〇〇万円の報酬を得、そのうち相当多額の金員を自己のために費消しており、犯情悪質というべきであり、しかも、被告人は、前記累犯で昭和五六年一一月に仮出獄しながら、その半年も経過しないうちから、右団体の活動の一環として脱税を始めており、本件犯行以外にも、かなりの数の本件と同種の脱税を敢行しているもので、被告人には遵法精神の欠如が著しいことなどを考慮すると、被告人の刑責は重いといわねばならない。それ故、本件においては、これまで同和諸団体の関与するこの種脱税を安易に容認放置してきた税務当局の側にも一端の責任があること、被告人は、判示各罪について、その修正申告にかかる税金の支払いや脱税の依頼者への返済として合計一億円以上もの金員を支出しており経済的に相当損出を被っていること、本件を深く反省していること、被告人が病気に罹患していることやその家庭の状況など被告人に有利な事情を斟酌しても、主文の刑はやむを得ないものと思料した次第である。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 東尾龍一)